スペイン代表は、FIFAランキング(2024年4月4日)8位で、 UEFA(欧州サッカー連盟)内の順位では3位。
前評判ではグループBは死のグループと言われ、個人的には戦術的な要素が消え個人技だけとなったグループに見えるが、真実はいかに。
勝ち上がれば組織と個人技が融合したフランスやベルギーと戦うことになるが、その勝敗はどうなるか。
- スペイン代表のメンバー
- 【6/15 第1戦】スペイン 対 クロアチア(3-0)
- 【6/20 第2戦】スペイン 対 イタリア(1-0)
- 【6/30 ラウンド16】スペイン 対 ジョージア(4-1)
- 【7/5 準々決勝】スペイン 対 ドイツ(2-1)
- 【7/9 準決勝】スペイン 対 フランス(2-1)
- 【7/15 決勝】スペイン 対 イングランド(2-1)
スペイン代表のメンバー
監督
ルイス・デ・ラ・フエンテ
GK
1 ダビド・ラヤ(アーセナル)
13 アレックス・レミロ(ソシエダ)
23 ウナイ・シモン(ビルバオ)
DF
2 ダニエル・カルバハル(R・マドリー)
3 ロビン・ル・ノルマン(ソシエダ)
4 ナチョ・フェルナンデス(R・マドリー)
5 ダニエル・ビビアン(ビルバオ)
12 アレックス・グリマルド(レバークーゼン)
14 エメリク・ラポルト(アルナスル)
24 マルク・ククレジャ(チェルシー)
MF
6 ミケル・メリノ(ソシエダ)
8 ファビアン・ルイス(パリSG)
15 アレックス・バエナ(ビジャレアル)
16 ロドリ(マンチェスター・C)
17 ニコラス・ウィリアムス(ビルバオ)
18 マルティン・スビメンディ(ソシエダ)
20 ペドリ(バルセロナ)
21 ミケル・オヤルサバル(ソシエダ)
FW
7 アルバロ・モラタ(A・マドリー)
9 ホセル(R・マドリー)
10 ダニ・オルモ(ライプツィヒ)
11 フェラン・トーレス(バルセロナ)
19 ラミネ・ヤマル(バルセロナ) 脅威の16歳
※学生のためにEURO2024の大会中に宿題をしなければならない。
22 ヘスス・ナバス(セビージャ)
25 フェルミン・ロペス(バルセロナ)
26 アジョセ・ペレス(ベティス)
【6/15 第1戦】スペイン 対 クロアチア(3-0)
- 対戦相手のクロアチア代表の戦術を分析
システム 4-3-3
使用戦術
- 改良型カテナチオ(カテナチオ+ハイプレス+ラインコントロール)
- GKからつなげるためのシステム変更とビルドアップ
CBとSBの4人がGKと並ぶスタイル。 - 相手のゾーンプレスをかいくぐるワイドプレイ
- 伝統のパス回しティキタカ
- 相手のラインコントロール
- WGを孤立させるアイソレーション
- どこからでもカウンターを狙う速攻戦術
- 押し込んでからの疑似カウンター
試合展開
黄金世代からスペインがFIFAランキングで降格した理由が、ラインコントロールに表れている。
【守備戦術】
- ラインコントロールをハーフラインまで上げ、パスの角度を切りながらハイプレスを掛けて前線で追い込む(俗に「はめる」と言う)。
- 中盤ではゾーンプレスを掛ける改良型カテナチオの典型。
- かなり高めのラインコントロールを行い、カタールW杯からの改良型カテナチオを継続する。しかし、DMの列でクロアチア選手が居ないにもかかわらずFWを無視してラインを上げることが出来ないため、数的有利を作れず非効率な守備になる。
【攻撃戦術】
- ワイドプレイを行いながらお家芸となるティキタカを行うために、ポジショニングを延々と行う。ただしクロアチアのディフェンスラインに入った後の動き直しが足りないため、ミドルサードで中央への展開が少ない。
- またワイドプレイになりきれないのか自信があるからなのか、ボール付近で選手が近づきすぎるために展開ができなくなってしまう。
パスサッカーのティキタカで世界でも最高のボールの保持率を誇るスペインであるが、黄金世代のような常勝を保てていない。
その理由の一つがラインコントロールにある。
ティキタカの本質は「圧倒的個人技によるボール保持」ではなく、加えて「システム変更による数的有利」だからだ。
ワイドプレイにより味方同士の幅が異様に広がった現在、システム変更とそのポジショニングは走る距離が増えて厳しくなってしまった。そこで移動距離やポジショニングの効率化が求められるのだが、ラインコントロールに正確さが無いためティキタカから速効が失われてしまったように見える。
スペインがかつての輝きを取り戻すためには、ラインコントロールの上下動を全体で間延びせずにチーム全体がコンパクトに守備を行い、攻撃戦術に速攻を加える必要があるだろう。
【6/20 第2戦】スペイン 対 イタリア(1-0)
- 対戦相手のイタリア代表の戦術分析
【6/30 ラウンド16】スペイン 対 ジョージア(4-1)
ワイドプレイはスペインのティキタカの距離が広がっただけで、最も活きる戦術と言っても過言ではないだろう。伝統的なティキタカを戦術として踏襲する事ができるスペインが現時点では最も成熟しているのかもしれない。
- 対戦相手のジョージア代表の戦術分析
システム 4-3-3
使用戦術
- 改良型カテナチオ(カテナチオ+ハイプレス+ラインコントロール)
- GKからつなげるためのシステム変更とビルドアップ
- ワイドプレイと伝統のティキタカを織り交ぜたパス回し
- 相手のラインコントロール
- WGを孤立させるアイソレーション
- どこからでもカウンターを狙う速攻戦術
ジョージアがPA前まで引くことでカウンターの機会がなかったのだが、カウンターのカウンターを3点目に決めた。
試合展開
グループリーグではDMがディフェンスラインへ寄りすぎて中央ががら空きになったり、ラインコントロールも曖昧だった。この試合はジョージアの5バックのシステムのお陰で、簡単に押し込めてその悪さが全く出ない。
【守備戦術】
- 速攻を仕掛けようとするジョージアに対し、守備から展開し切る前にゾーンプレスを仕掛けてボールをすぐに奪取する。
【攻撃戦術】
- PA前まで完全に引いた相手に対し、ワイドプレイからのビルドアップの延長で1対1を行い、ポゼッションの状態からは距離感が縮まりティキタカとなる。
- ディフェンスラインに戻した際はワイドプレイの距離感に戻り、両サイドへ素早いパス回しから疑似カウンターで中央を広げる。
- 左右にボールを振り続け、マークがズレたカテナチオの間を狙い続けた。
1点目は疑似カウンターから中央を広げて挙げた。
EURO2024でスペイン代表はラインコントロールを苦手とし、さらにDMがディフェンスラインへ寄りすぎて重なることで中盤が空く状態が続いていた。
今試合ではジョージア代表が最初からPA前まで引くことを選択したために悪い部分が隠れたが、引きすぎない相手に対してはどの様な展開になるだろうか。
おそらく中盤でのゾーンプレスを抜けれずに、カウンターを受けて失点するのではなかろうか…
EURO2024大会ではワイドプレイが主流となりティキタカとの相性も良いはずの攻撃戦術だが、味方と重なる中盤選手の影響がどの様に出るのか今後も注目したい。
【7/5 準々決勝】スペイン 対 ドイツ(2-1)
ラインコントロールの欠点を修正できるだろうか?
- 対戦相手のドイツ代表の戦術分析
システム 4-2-3-1?
使用戦術
- PA前でのカテナチオとマンツーマンのディフェンス
- ラインコントロール
- GKからのビルドアップとシステム変更
CBがPA両サイドに開き、SBがサイドラインに開くお椀型。 - ゾーンプレス対策のワイドプレイ
- 相手のラインコントロール
- WGを孤立させるアイソレーション
- どこからでもカウンターを狙う速攻戦術
試合展開
スペインはティキタカやワイドプレイで押し込もうとするが、ドイツは高くも低くもないラインコントロールで1対1の状況を作り出す。激しい球際の守備をされた結果、試合開始早々にペドリが交代を余儀なくされてしまう。
【守備の特徴】
- グループリーグでは低すぎるラインコントロールが目立ったが、少し改善されたように思える。しかしまだ気持ち低く、中央のスペースをドイツのワイドプレイにより広げられ使われている。
- ラインが低いために中央をあけてしまうスペインと、中央でのビルドアップが苦手なドイツによって互角の展開になった。
- DMの列が広くあいてしまい、そこでロングボールのポストプレイを行われることで更に押し込まれてしまう。
- 勝ち越して守備的になったところを更に押し込まれてしまい、失点へとつながった。
【攻撃の特徴】
- 常にドイツ選手の間にポジショニングを行い、ビルドアップを行う。
- 相手に絞らせないためにワイドプレイを行うが、選手がドイツの選手間のスペースへ走り込むことで長短パスを織り交ぜてティキタカを行う。
- 前半はドイツに1対1のマンツーマンへ付かれていたことで攻め手を欠いていたが、後半後ろから上がってきてマンツーマンが剥がれた選手へセンタリングが上がり得点を決めた。
- アタッキングサードではポジションチェンジを繰り返すことでマンツーマンのズレを誘い、ドイツPAへと侵入する。
- ポジションを入れ替わり続けても、誰が本来のポジションなのかわからないほど正確に行う技術があるが、入れ替わりすぎた場合は時間を作りその間に本来のポジションへと戻る。
- 延長後半終了間際、左右に振ったボールをPAへセンタリングを上げてゴール。
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【7/9 準決勝】スペイン 対 フランス(2-1)
- 対戦相手のフランス代表の戦術分析
システム 現地予想では4-2-3-1だが、実際は4-3-3
使用戦術
- 改良型カテナチオ(カテナチオ+ハイプレス+ラインコントロール)
- GKからのビルドアップとシステム変更
- 相手の改良型カテナチオをかいくぐるワイドプレイ
- 相手のラインコントロール
- WGを孤立させるアイソレーション
- どこからでもカウンターを狙う速攻戦術
【7/15 決勝】スペイン 対 イングランド(2-1)
- 対戦相手のイングランド代表の戦術分析
システム 4-3-3
使用戦術
- 改良型カテナチオ(カテナチオ+ハイプレス+ラインコントロール)
- GKからのビルドアップとシステム変更
イングランドのプレスによって幾つも形を変える。 - 相手の改良型カテナチオをかいくぐるワイドプレイ
- 相手のラインコントロール
- WGを孤立させるアイソレーション
- どこからでもカウンターを狙う速攻戦術
試合展開
【守備の特徴】
- ワイドプレイになりきれないイングランドに対し、従来の改良型カテナチオで追い込んでボールを奪う。
- 高さにかかわらず徹底したプレスを掛け続け、相手に単独での突破を容易にさせない。
- 攻撃時に無駄なボールのロストを避けることで相手に攻撃をさせない。
【攻撃の特徴】
- 二列で中央を固めるイングランドに対し、スペインはワイドプレイを混ぜたティキタカを行い、外を回しながらマークのズレを誘う。
- サイドで縦の突破をするとセンタリング、中央を抜ければスルーパスやドリブルなど基本通りを繰り返すが、ディフェンスラインの裏へのパスは少ない。恐らくボールのロストを減らすため。
- 両サイドから中央へのパス回し(疑似カウンターの完成形)を行い、イングランドのマークがズレさせてマンツーマンを成り立たせない。
- PA前やバイタルゾーンでポジションチェンジを激しく行うが、誰がどのポジションに入っても違和感が無いほど滑らかに変わる。
すべての国がワイドプレイを実践しようとする中、唯一ただ広がっただけのスペインのビルドアップ。伝統のティキタカの幅を広げただけで適応が可能となったのだ。
さらにディフェンスでは改良型カテナチオを行っていた。
つまり世界がワイドプレイを始めビルドアップを模索する中、スペインは世界で唯一戦術を変えずに済んだチームなのだ。
今後世界が戦術を模索する中、何も変えずに不動の地位を築くのかもしれない。