改良型カテナチオは『押し上げるラインコントロールとゾーンプレス』を組み合わせより高い位置でボールを奪いショートカウンターも狙う。
筆者ビリーが知る限り「改良型カテナチオ」はブラジルのチッチ監督が始めた戦術で、2005年にオフサイドのルール変更が行われて以来、カテナチオよりも攻守一体となった超攻撃型の守備戦術と言われる。
超攻撃型の守備戦術『改良型カテナチオ』とは
現代のカテナチオは自陣の中盤からバイタルエリア手前で待ち、攻めてきた相手を各エリアに追い込む堅守速攻の守備戦術だった。(下図左側)
改良型カテナチオはハーフラインまでディフェンスラインを押し込むこともあり、どの位置からもカウンターを狙う超攻撃型の守備戦術である。(上図右側)
どの高さからもカウンターを狙う超攻撃型の守備戦術
改良型カテナチオはディフェンスラインを高めに設定することで、前線からボールを追い回すハイプレスと中盤のゾーンプレスを合わせ、どの高さからもカウンターを狙う。
上図左側のカテナチオでは、青枠内へ相手をおびき寄せてゾーンプレスを行うことで安定した守備を行う。
右側の改良型カテナチオでは、高い位置でも積極的なゾーンプレスを掛けて高い位置でのカウンター(ショートカウンター)を狙う。
ラインコントロールで数的有利を作りゾーンプレスを掛ける
ラインコントロールにより全体を押し上げ相手FWをオフサイドポジションに置いて無力化し、数的有利になった中盤から前線でゾーンプレス掛ける。
黄色の楕円内では、守備側の日本代表が6対5を作った状態。
赤の攻撃側は袋小路に追い込まれると自陣のディフェンスラインやキーパーへボールを戻すことになる。
守備側は合わせてラインを上げることになり、守備をしながらディフェンスラインを上げ、さらに相手陣地内へ押し込むこともある。
これが現代のオフサイドトラップとなっている。
システム変更で数的有利を作りゾーンプレスを掛ける
3-4-3のWBや4-3-3のSBが上がることでシステム変更を行い、中盤で数的有利を作りゾーンプレスを掛ける。
ボールの高さや相手チームの特徴、押し込み具合により中盤で数的有利を作ることができる。
両チームがラインコントロールで釣り合った状態
下の写真は『カタールW杯 ROUND16「アルゼンチン対オーストラリア」』。
両チームがラインコントロールを行い、オーストラリアはDF一人を中盤に上げるが、アルゼンチンが(上図でいう無力化されていた)FWを中盤に下げたことで数的有利を作る。
・攻撃側;オーストラリアは3-4-3に変形
・守備側;アルゼンチンの3-5-2(3-2-3-2)でWBのシステム
オーストラリアはこれ以上ディフェンスラインを上げるとカウンターを受けやすくなるため、この距離を保つしか無い。
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超攻撃型の守備戦術『改良型カテナチオ』の欠点
超攻撃型の守備戦術というとメリットばかりのように思われるが、もちろん欠点もある。
押し込みすぎるとカウンターしづらくなる
押し込みすぎると相手のディフェンスラインの裏が無くなるため、カウンターは成立しづらくなる。
相手によっては自陣でラインコントロールを上げすぎないように調整する必要もある。
上図の右側ではPA(ペナルティーエリア)内をドリブルで仕掛ける選手がいれば有効となるが、パスでつなぎ切って点を決めようとすると至難の業(わざ)となる。
通勤ラッシュ時の山手線内で果たしてパスが通るだろうか。
相手のカウンターも受けやすくなる!?
改良型カテナチオはポゼッション(ボールを自分たちで保持する能力)に実力差がなければ成立しない戦術でもあるが、一旦押し込めれば数的優位を作りやすいためカウンターの危険は少なくなる。
ただし上図の通りディフェンスラインを上げることで自陣のディフェンスラインの裏全てが走り込むスペースとなり危険である。
どの位置からもカウンターを狙う守備戦術でもあるのだが、カウンターを受けやすい戦術でもある。
そのため試合展開など状況に応じてディフェンスラインの高さを設定することになる。
体力消費が激しく格上相手には通じない
ゾーンプレスとは、ボールを持つ選手に対して複数人で追い込むディフェンス方法だが、本来自分のマークを外してボールを持つ選手のところまで走る必要がある。
そのため仮にパスを出されると、さらに多くの距離を走らなければならなくなる。
さらにドリブルの上手い世界的選手がいると、何人でマークしようがスルスルっと抜けられてマークを外したフリーの選手へパスを出されて逆にカウンターを受けやすくなってしまうのだ。
これがメッシやネイマール、ロッベン、リベリーなどドリブルが上手い人が重宝される理由である。
サイドチェンジと疑似カウンター
PA手前付近で4-4-2の守備陣形を作ることを考えよう。
4-4-2でボールサイドに偏ると、逆サイドにスペースができる。
素早いサイドチェンジが得意なチームだと、簡単にそのスペースを疑似カウンターで使われて、マークを切り替える前の短時間でディフェンスラインの裏にボールを入れられて得点されてしまうのだ。
すでに「改良型カテナチオ破り」のシステムが確立されている
カタールW杯でクロアチア代表が日本代表やブラジル代表にやった通り、単純に味方の距離を大きく開くワイドプレイで改良型カテナチオのゾーンプレスは簡単に破られてしまう。
黄色の楕円は走り込めば誰でもパスがもらえるスペース。
ただワイドプレイの実行は簡単ではなく、全員が正確なポジショニングと精度の高いパス、1対1で負けない強さを持ち合わせる必要があるのだ。
クロアチア代表はブラジル代表に対して行い、点を入れさせなかった。
奇しくも日本代表はスペイン代表のティキタカではなく、ブラジル代表を再び真似することになるのだ。