日本代表はアジア圏で圧倒的に強く、悪い部分が見当たらないほどだった。
しかしカタールW杯が始まってみれば日本の戦術はラインコントロールすらない三世代も前のものだと分かり、日本代表は第一戦のドイツ後半から大会中ずっと戦術を修正し続けた。
その結果日本は見事に1位通過を果たし、見事ベスト8への挑戦権を得た。
海外で経験した選手たちのレベルが上がり、層も厚くなることでチームのレベルは上がったが、戦術レベルが上ったわけではなかったのだ。
残念ながら最終的に3位になるクロアチアにPKの末に負けたのだが、W杯カタール大会を通じて足りないものが具体化した。
それこそがベスト8の壁だった。
2023年7月のイギリスのスポーツ誌「Sports JOE」によると、国際サッカー連盟(FIFA)が2023~24シーズンに向けてスウェーデン、オランダ、イタリアでオフサイドの新ルールを試験運用する予定だそうだ。
試験運用する新ルールでは「攻撃側の選手の全身が、完全に守備側の選手の前にある時のみオフサイドになる」と判定される。
最近ではビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)で細かい判定により多くのゴールが取り消されてきたのだが、この新ルールによりオフサイドの数が激的に減少するだろうと予測される。
ここで話す戦術は、新ルールを適用しない状態での話とする。
カタールW杯の記事と重複してしまうが、簡単におさらいをしながら日本代表が目指すべき戦術の理想像を考えてみる。
ラインコントロールはあらゆる戦術の要!?
ラインコントロールはチーム全体に影響を及ぼす根底にある戦術だからなのか、それとも意識しすぎたせいなのか、W杯カタール大会は「特に各チームのラインコントロールで大きな違いが出た大会」に見えた。
前大会もそれなりに試合を見たはずだったのだが、前大会では今大会ほどはっきりとラインコントロールがされていた印象が無い。
前大会は地上波だけで分析しきれなかっただけだろうか…
カタールW杯で一番の大番くるわせはサウジアラビアのラインコントロール
カタールW杯で個人的に一番の試合を挙げるとグループステージC組の「アルゼンチン(3位)vsサウジアラビア(51位)」だ。
この試合ではFIFAランキング51位のサウジアラビアがVARを信じてオフサイドトラップに賭け3位のアルゼンチンに勝利し、見事に大番くるわせ(ジャイアントキリング)を見せた。
【参考】「アルゼンチンvsサウジアラビア」の分析
オフサイドのルール変更以来無くなっていたラインコントロールがVARにより見事に復活していたことが証明されたのだ。
【参考】ラインコントロールとオフサイドトラップ
カタールW杯の開幕と日本代表の戦術の変化
カタールW杯が開幕すると、日本代表の戦術は時代遅れだと分かった。
日本代表は中盤で数的有利を作ることができないと判断し、森保監督は急遽守備的な3-5-2のシステムでカウンターを主体とする戦術に変更した。
2005年にオフサイドのルール変更以来ラインコントロールの技術が止まっていたのだ。
【詳しくはリンク先を参照】W杯カタール大会の開幕と日本代表の戦術
3CBにすることで両サイドのWBが駆け上がれるようになり、最も簡単と言えるシステム変更ができるようになったのだ。
3-5-2は森保監督がJリーグ時代に最も得意とするシステムの一つだったため、W杯の土壇場でも急遽行えたようだ。
日本代表の守備戦術の基本
日本代表はラインコントロールが無いものの、現代のカテナチオと呼ばれる4-4-2(4-4-1-1)の守備陣形を作る。
さらに日本代表は高さに合わせたディフェンスを選択し、大まかに三種類のカウンターを実践するため、守備におけるエリア戦術を見直すことになった。
エリア戦術を簡単に言うと「どの高さではどのような守備をするか」という取り決めがある守備戦術のことで、日本代表は主にザッケローニ監督の下で取り入れそこねた経緯がある。
【参考】ザッケローニ監督のエリア戦術とは
日本代表が勝ち進むための戦術はカウンターだった
- アタッキングサード
アタッキングサードから追い込みボールを奪取した瞬間にシュートへと向かうハイプレスとカウンター戦術。スペイン戦ではこれで得点を挙げたのだが、日本はラインコントロールが低いため前線で数的有利を築くことができていなかった。 - ミドルサード
ミドルサードで数的優位なエリア(ゾーン)に追い込み、囲むことでボールを奪い素早く展開し、カウンターへと繋げる。
一般的にはサイドへ追い込むことがほとんどだが、相手にドリブルが上手い選手がいるとゾーンプレスの戦術が通用しない。
ドリブルの上手い選手の例.メッシ、イニエスタ、ネイマールなど。 - ディフェンシブサード
ディフェンシブサードでバイタルエリア(下図の赤がシュートエリア、黄色がセンタリングエリア)を相手に使わせず、素早くボールを展開する。
本来ディフェンスはミドルサードでの攻防が理想的だが、ドイツやスペインには押し込まれることが多かった。
幸か不幸かカタールでの過酷な環境ではカウンター戦術を採用した国が勝ち進むことが多く、日本も類に漏れずベスト16まで勝ち進むことができた。
ベスト8以上の国は複数のシステムを使いこなした
スペイン代表だけではなくクロアチア代表もだが、ベスト8以上の国は確実にビルドアップ用のシステム変更を行っていた。
森保監督も気づいている通り日本のサッカー文化には高さに合わせたシステム変更(可変システム)が無く、ほぼずっと同じシステムのまま上下する。
仮にシステムを変えても「システムに合わせたポジショニングができなかった」ため、また「相手に自分たちのシステム変更以上の対応をされた」ため、システムの特徴を活かすことができずに終わった。
ベスト8の壁!?日本代表とベスト8以上の国の違いとは
日本代表とベスト8以上の国の違いとは何だろうか?
現在世界では局地的に数的優位を築くことを主戦術とし、ベスト8以上の国ではほぼ全て可変システムと言われる攻撃時の高さでシステム変更を行い、常に数的有利を作り続けていた。
今大会ではブラジルがその顕著な例で、ボールや全体の高さによりDFの枚数を細かく変えるなど繊細なラインコントロールを実践してきた。
しかし日本代表は大まかに攻撃と守備で2つのシステムしか無い。
ベスト4以上の国の戦術とシステム
モロッコは脅威のカウンターを駆使して4位になったが、その他3国は相手の苦手なシステム変更までを行っていた。
例えば「クロアチア vs ブラジル」で考えよう。
優勝候補と呼ばれていたブラジルは、守備では現代のカテナチオ(4-4-2)とゾーンプレスによるエリア戦術、ラインコントロールを組み合わせた『改良型カテナチオ』を。
攻撃ではネイマールを中心としたあらゆる可能性を高めるトータルフットボールを行っていた。
対するクロアチアは世代交代に失敗し、モドリッチを中心にカウンターを試みるものの年齢層が高いせいかトップスピードに欠ける様に見えた。
誰もがブラジルの勝利を予想していたかに思えたが、クロアチアは『改良型カテナチオ破り』とも言える高度な戦術を駆使して要所を締めて渡り合い、PKの末にクロアチアが勝利を収めた。
クロアチアはブラジルのゾーンプレス対策のシステムも用意していたのだ。
【参考】超攻撃型の守備戦術「改良型カテナチオ」とは
改良型カテナチオ破りとは
守備時はゾーンプレス(密集しボールを持つ選手に対して人数を掛けてボールを奪う戦術)を採用するブラジルに対し、クロアチアは選手間の距離をフィールドいっぱいに広げて全選手に1対1でボールをキープする戦術を選択した。
1対1が恐ろしく強いと言われるブラジルに対し、それでも勝ちながらボールを運ぶ戦術を選択したのだ。
勝ち進む国のシステムは一貫していた
カウンターで勝ち進んだモロッコは例外として、カタールW杯で勝ち残る国は共通して「相手の良さを消し、自分たちの良さを出すシステムや戦術」を採用していた。