サッカー日本代表はアジアカップ開幕前に「圧倒的強さで優勝するだろう」とまで言われていたが、始まってみれば初戦でトルシエ監督率いるベトナム戦での違和感から始まり、第二戦のイラクでは戦術が崩壊し敗北した。第三戦のインドネシアでは勝ったもののほぼ互角に見える展開で、負けていてもおかしくはなかった。
アジアカップは全試合が次回W杯に向けた大事な試合だったのに、森保監督はなぜ積み重ねてきた戦術を全て捨ててしまったのか?
日本代表らしさと良さとは何だったのか?
現状は積み重ねてきた戦術を全て捨て、昔のアジアレベルと言われる個人技任せでただボール近くの人が入れ替わり続けるだけの状態を戦術と言い張るレベルに逆戻り。
恐らく戦術を提案しているのは森保監督ではなく、新しく入ってきたコーチ陣の誰かと推測している。
守備戦術は「組織とカウンター」
守備時は現代のカテナチオ(4-4-2か4-4-1-1)になり、後ろは二列になる。
ショートカウンター(高い位置で行うカウンター)を行い相手に攻撃すらさせない。
ゾーンプレス(数的有利を作る小さな守備陣形)で相手にパスさえ出させない、これが理想であった。
【参考】森保監督のこれまでの戦術と目指すべき戦術
攻撃戦術は「組織と個人技の融合」
両サイドのSHやWGはドリブラーを配置し、以下を意識する。
ボールサイドでは、ビルドアップと相手ディフェンスラインの裏取り、可能であればラインコントロール(相手ディフェンスラインを上げさせる)を。
ボールの逆サイドでは、アイソレーション(1対1でドリブルを仕掛けるためのポジショニング)の状態を作り、相手ディフェンスラインを広げる。
現状、日本代表には三笘薫や伊東純也という欧州でも屈指のドリブラーが居るため、アイソレーションこそ日本代表で最高の攻撃戦術の一つと言える。
使えなくなった交代戦術
日本代表の最大の良さの一つだった交代戦術だが、コロナ禍が過ぎ、交代枠が5から3へと減ったことで、日本の厚い選手層が使えなくなってしまった。
攻守どの高さからもカウンターを仕掛ける戦術
「常に組織で動くことで、攻守どちらからでもカウンターを狙い続ける堅守速攻」これが日本代表が目指していた戦術だった。まさにカウンター戦術と言えるだろう。
アジアカップで習得するべき戦術
アジアカップでの個人的な期待として、圧倒的な実力差から早々と試合を決め、未習得の戦術とオプションとなる戦術を試す重要な機会としてほしかった。
これら戦術は『ベスト8突破を目指す日本代表』にとって、大きな課題と言える。
DFのラインコントロール
CBが冨安と板倉が揃っていなければ現代のラインコントロールが通用しないのでは、二人が試合に出続けることが前提となる。
果たして現状で3番目のCBの谷口はラインコントロールが出来るだろうか?
仮に次回W杯でグループリーグを突破したとしても、試合数が増えるノックアウトステージでのベスト8は厳しいのだ。
ラインコントロールができるCBが最低3人揃い、理想は両SB(WB)もラインコントロールができるようになることである。
CBが3人揃うことで3CBの戦術も可能となり、試合ごとの交代戦術やシステム変更の幅が大きく広がる。
谷口が居ることでCBは3人が揃うが、谷口はアンカーとしての機能を期待することで戦術の幅が大きく広がることも追記しておく。
未だ発展途上の「ビルドアップ」
攻撃時の理想はGKからパスでビルドアップをするシステムだが、どうやら日本代表はまだ習得できるレベルではないため、大きく蹴り出してビルドアップを始める。
【参考】GKからパスでビルドアップをするシステム変更
ミドルサード(フィールドを三つの高さに分けたセンターサークル付近の高さ)ではシステム変更をして数的有利を作り安全にボールを運ぶ。
【参考】ビルドアップのために数的有利を作るシステム変更
ビルドアップの問題点はDM、SBのポジショニング
もはやDMの中心となった守田と遠藤の二人だが、それぞれに問題点がある。
遠藤のビルドアップ時のポジショニング
日本代表はフィジカルだけではなく常に数的有利を作る戦術が目標なのだが、遠藤はビルドアップ時にDFに寄り過ぎてポジションが重なり数的不利を作る。
DMがDFと重なることでDMが一人だけになり、複数にマークされることでパスは出せなくなる。
しょうがなくトップ下(南野や久保)が下がると、その先が誰も居ない状態となりパスが繋がらない。
グループリーグでは3試合ともこの展開だった。
さらに4-3-3でANC(アンカー)のポゼッションに入った時、守備から攻撃へと移ってもそのまま守備と同じポジショニングをしていた。
広がって展開したいのに、近寄ったポジショニングを継続してしまうのである。
守田は中央でのパス回しに難点あり
攻撃的なDMと言われる守田はトップ下のポジションに上がり、
- シュートを打つ
- ドリブルで上がる(運ぶ)
- CFにスルーパスを出す
- 左右にパスを出して展開
- ポゼッションのために後ろへ戻す
この四択で何をして良いのか分からなくないのか固まることが多い。
攻撃的な守田、DFに近寄りすぎる遠藤、なんともややこしいDMの二人だ。
SBの展開できないポジショニング
本来守備から攻撃へと切り替える時、SBはフィールドいっぱいに広がりCBとお椀型(おわんがた)になってボールを展開できるようにポジションをとる。
しかしなぜか四人が並んだままとなったり、上がりすぎることでボールを貰えない状況を作る。
そして先に挙げた遠藤がSBの位置に収まりDMが足りない状況を作る。
【参考】サイドで数的有利を作る戦術の欠点
激おこの元闘将
自称元闘将で自称現解説者の闘莉王氏は、グループリーグ第2戦を見て「SHが広がらないからボールが中央で展開できない」と言っていたが、ビリーの分析では「SHよりもSBとDMのポジショニングに問題があるため」にビルドアップもできなければ広がれもしないのだった。
グループリーグの三試合で大きなサイドチェンジを見た記憶がないほど近寄りすぎて、味方が展開ができないようなポジショニングをしている。
SBのビルドアップ時に展開するポジショニングは代表レベルの話題ではないハズなのだが…
行き詰まったら「ポゼッション」に
攻撃に確実性がなければポゼッション(パスでボールを回し、全体でキープ)に切り替える。
中央で上下左右にパス回しをすることで相手の守備陣系が乱れた所へスルーパスを出す。これは久保建英がトップ下に入った状態で見えた戦術であり、これもアジアカップで習得するべき戦術であった。
日本代表の中でもポゼッションに定評のある久保であれば、このプレーを引き出せると思っている。
行き詰まったはずが「疑似カウンター」に!?
本来攻撃に確実性が無いために中央でのパス回しや後ろへ戻すポゼッションを選択したはずが、アイソレーションと組み合わせることで疑似カウンターと言う武器になり、現日本代表が世界に誇る両サイドを活かす最高の攻撃戦術となる。
これは中央でパス回しができれば押し込んだ状態でも成立し、ボールが両サイドに広がれば相手ディフェンスラインも広がり、中央が開けば突破するのみとなる。
素早いサイドチェンジができれば、引いた相手に対して最高の戦術になるだろう。
【参考】疑似カウンターとは
中村敬斗が最高の出来を見せている
疑似カウンターは三笘がいなければできないのではないか!?と思った人も多いだろうが、現状中村敬斗が最高の出来を見せている。
一対一で縦に強い三笘に対し、オールラウンダーの中村と言えば分かりやすいかもしれない。
クラブチームでCF、WG、SH、CMFを経験してきた中村敬斗は、もはやアジアカップで頭一つ飛び出た存在に見えた。
オールラウンダーである利点はポジションチェンジだけではなく、三笘の苦手とするビルドアップに関しても強いのだ。
左サイドで三笘よりも安定感を作ることができるようになり、さらに三笘が交代戦術として控えることで相手の脅威にもなる。
三笘薫は今後交代要員に!?
今後三笘はビルドアップに不安を抱えたまま日本代表のスタメンを勝ち取ることは難しくなったと言えるかもしれない。
日本サッカー界にない文化の「動き直し」
日本代表に限らず日本サッカー界では「ポジショニングの文化が無い」とも言えるほど低い。
一度状況が変わったらポジショニングし直す「動き直し」が代表レベルでも出来ないのだ。
相手のディフェンスラインに入ったまま動かない
対戦相手を押し込み、両SH(WG)やCF、ひどい時はSB(WB)らが相手ディフェンスラインに一度入ると、ポゼッションのためにボールをDMやDFへ下げてもそのまま残る悪い癖がある。
相手ディフェンスラインの中に残ると中盤やDFが足りなくなり、ボールを前線にすら送れなくなる。
ひどい時は、そのままカウンターを受けることとなる。
中盤でのビルドアップでも帰ってこないSB(WB)
上記で分かりやすい例を挙げたが、アジアカップでのSB(WB)はビルドアップどころか展開でのポジショニングすら出来ないようだ。
CBがボールを左右に展開しようにも守備陣形の状態のまま動き直さないために、左右を広く使えないのだ。
日本サッカー界には『動き直しの文化が無い』と言える。