コロンビア戦では世界のトレンド戦術に追いつけるように様々なシステムとメンバーの適正を試した。
森保ジャパンは欧州組やJリーガーが集まり日本人だけになると戦術やシステムが途端に機能しなくなる原因を予想し、コロンビア戦はその予想を確信に変える試合だったと思われる。
これだけの多くのことをウルグアイ戦とコロンビア戦のたった2戦で試したのだから、新生森保ジャパンは間違いなく次のW杯でベスト8を狙い進化を始めたと言える。
しかし森保監督が世界のトレンド(最先端の)戦術を取り入れカタールW杯で標準の戦術に追いつくまで後一歩だが、選手の頭にシステム変更とポジショニングが入っていないのか上手くいかない。
今こそポジショニングや複数のポジションをこなすポリバレントの能力が求められている。
世界のトレンド戦術では高さに応じて決まったシステム変更がある
至極個人的な意見で恐縮だが、ヨーロッパでこれだけ活躍する選手がおりJリーグの選手も通用するとわかった今、Jリーグのレベルも上がってきていると判断できる。
「もしこれだけ豊富な選手がいても日本代表が弱い場合は、森保監督の戦術オカシイ」と言われるが、果たしてそうだろうか。
世界のトレンド戦術とも言える森保監督が掲げる戦術が成り立たない原因を、ウルグアイ戦とコロンビア戦から分析した。
日本代表のビルドアップが上手くいかない理由
【カテゴリー】第2次森保ジャパンの初陣「キリンチャレンジカップ」の③~⑤にある通り、カウンターや型のない速攻とは異なり世界のトレンド戦術ではボールの高さに応じて決まったシステムがある。
日本代表でも世界のトレンド戦術を真似しようとはしているが、どうにも上手くいかないのだ。
GKからのビルドアップとシステム変更
カタールW杯でも課題となっていたのだが、ディフェンスラインから中盤へのビルドアップが上手くつながらない。
どうやら日本代表はビルドアップでボールを回しながらのポジションチェンジが苦手なようだ。
ディフェンスラインからのビルドアップは、全員のポジションが重なること無く数的優位を作る必要がある。
ところが現状で日本代表はポジションが重なり、数的不利を自ら作り出している。
極端な例を挙げると現状の日本代表はボールを回す時点で以下のようなシステムで待機状態になるのだが、誰と誰のポジションが重なっているだろうか。
図.偽SBにより伊藤と菅原が上がりビルドアップをする状態
浅野
三笘 鎌田 堂安
伊藤 菅原
守田
瀬古 遠藤 板倉
シュミット
考えてから、以下へ読み進めて欲しい。
ビルドアップのシステム変更とポジショニングができない日本代表
GKのシュミットと遠藤が重なっているのだ。
GKからビルドアップをする際、あくまでも一例だがカタールW杯では以下のようなシステムが流行っていた。
浅野
三笘 堂安
鎌田
伊藤 菅原
守田 遠藤
瀬古 板倉
シュミット
GKのシュミットと大きく開いたCBの瀬古と板倉、DMの守田と遠藤がそれぞれ鳥籠(とりかご)のような状態でボール回しを出来る状態にする。
結局このシステム変更ができていないために安定したボール回しとビルドアップができないようだ。
【参考】ディフェンシブサードでのボール回し
システム変更は全員でポジションチェンジをした結果
サッカーのトレンド戦術では上記のようにビルドアップでシステム変更をする。
ポジションチェンジ(位置替え)は味方と入れ替わる以外にシステム変更でも必要になる。
どうやら日本代表選手はポジショニングが下手なため、ポジションチェンジとシステム変更がビルドアップの流れでできないようだ。
しかし2023年3月に行われたキリンチャレンジカップから分析した結果、原因は選手がシステム変更に適応できず、さらに正しいポジショニングが取れないためだった。
日本代表のポジションチェンジとシステム変更の実際
それでは日本代表の試合中のビルドアップを見てみよう。
録画を見返しながら読めば、より伝わる内容になっているはずである。
下写真青矢印は各選手が移動するべき方向、青い三角形や棒は居るべきポジション。
写真1の下側の左サイドでは、左CB瀬古が上がっていたので左SB伊藤がCBの代わりをしつつ、シュミットへボールを返した状態。
写真1.GKからの展開とシステム変更
この状態では右CB板倉が右SB菅原の真下(縦の青線)ぐらいまで開き①ボールを貰う、SB菅原とDMF守田への②のパスコースを作る。
②のパスを貰った人は、③の展開を予想して準備をする。
この状態でDMF遠藤は赤の太矢印をもらおうとしていたのだろうか?この状況でのターンは難しいと思うのだが…
写真2.実際の日本代表のポジショニング
しかし実際は青色の蛍光線で繋いだように、ディフェンダー陣が近すぎることでコロンビアのマークマンも近寄る(密集する)ことが可能となった。
密集すると相手もゾーンプレスができることになる。
そのせいか遠藤が丸の斜線へ入るとCB瀬古とSB伊藤と近寄りすぎることになる。
CB瀬古とSB伊藤は相手に絞らせないためにも画面から出るぐらい青矢印方向へ行くべきだった。
写真3.その後ほぼ動かなくなる日本代表選手
CB板倉は全体が押し上がると思い菅原の方へドリブルをするが、日本代表選手はほぼだれも動かなくなり、さらに何故かDMF守田と遠藤もボールへ近寄りだす。
DMF守田が近寄ったと判断したら、DMF遠藤は青丸斜線部へポジショニングをし直すべきだったかと思うが、紫色の堂安へのパスを出そうとでも思ったのか立ち止まる。
写真4.何故か全員ボールへ密集する日本代表選手
SB菅原、CB板倉、DFM守田と遠藤は全員堂安へパスを出そうと思っているのか、全員がほぼ同じ場所にいる。
コロンビアはしっかりと堂安を前に向かせないためのマークを付け、ディフェンスラインも作っているため、堂安にパスを出されても怖くない。
日本代表選手がボールへ密集することでマークするコロンビア代表もボールへ近づき、その結果パスコースがなくなった左SB菅原はGKシュミットへとパスを出すのだった。
このように、先述したGKからのビルドアップのためのシステム変更ができないのが日本代表の現状である。
全体でポジションチェンジからシステム変更を行い、細かくポジショニングを繰り返す
システム変更にはポジションチェンジを全体で連携して行うのだが、決まった位置へ動くだけではマークされてボールを貰えない。
そこでマークを外すために距離を保ちながらポジショニングを行い、自分がボールを貰えないなら味方へのパスコースを作る。
写真5.パスの出しどころが無い瀬古
日本代表選手はビルドアップのポジショニングがおかしいため、余裕を持った状況でもパスの出しどころがなく困る。
一般的には右SB菅原や右CB板倉らディフェンダー陣が広くボールを回せるようにポジショニングを取る。
写真6.DMFがボールに寄るために狭くなる
ビルドアップでは赤線でつなぐようなパスコースを考えるのだが、中央のDMF守田と遠藤にはマークが密集している。
さらにDMF守田と遠藤はふたりとも微妙にボールに近いため、コロンビア選手を引き寄せるどころかボールを持つ瀬古に対して近寄らせてしまっている。
写真6の状況では黄色線の三角形の中心にいて、この4人を引き寄せる役割が正しいと思われる。
グラウディオラ監督時のバルセロナであれば、DMF遠藤に瀬古からパスを一度当てて戻し、伊東へのパスコースを広くする戦術を用いていた。
写真7.そのまま伊東へパスを出す瀬古
一度遠藤に当てて出しても良いが、瀬古はそのままフリーの伊東へパスを出した。
この時点で全体が攻撃のスイッチを入れるべきはずなのだが、ボールを蹴った時点でも日本代表選手は微動だにしていない。
中央に上がる板倉は極端だが、本来は各選手が青丸の場所にポジショニングをすることで全体のシステム変更をし、全体で押し上げる攻撃になる。
写真8.全体で攻撃のスイッチを入れる日本代表
SH堂安、CMF久保、CF上田、SH伊東、SB伊藤のが攻撃のスイッチが入っているべきなのだが、まずCF上田がコロンビアのオフサイドトラップに捕まることで赤矢印のスルーパスが出せない。オフサイドトラップは現日本代表には無い戦術である。
CFの上田がオフサイドトラップに掛かっていても、瀬古が伊東へパスを出した時点でSH堂安、CMF久保、SB伊藤が走っていればオフサイドトラップを逆手に取りディフェンスラインの裏を取ることはできたはずである。
「Jリーグのようなビルドアップ」と言われたのはこの時点で「上田がオフサイドトラップに掛かり、スルーパスが出せない戦術的ポジショニング」に関してだろう。
左SH伊東が反時計回りでターンした場合、左SB伊藤は青矢印の2パターンがある。
個人的には内側の矢印をせめて言って欲しいところだ。
ポジショニングの延長に味方とのポジションチェンジがある
今回森保ジャパンでは偽SBを採用したことでSHとの入れ替わりが多く見られた。
これは自身のマークマンを外すためにポジショニングを行い、結果としてポジションチェンジをするためである。
特にSH三笘はビルドアップのためのポジショニングが極端に苦手なようで、SHの三笘が下がるためにSB伊藤が上がるのだが、SH三笘が動き直さないのでSB伊藤が動けないのだ。
仕掛けるのが得意なSH三笘とビルドアップやスルーパスが得意なSB伊藤が入れ替わったままではシステムの意味が無くなる。
もしポジションチェンジで入れ替わったままになるのであれば、そのポジションを最後までやりきらねばならないが、どうやらできないようだ。
(余談)ポジショニングの問題は一部ゾーンプレスが原因にも!?
これは特にカウンター時の話。
サッカーは常に流れの中でポジショニングを行うのだが、それでも日本代表はシステムから大きく逸脱してしまう。その原因の一つはゾーンプレスにある。
本来『ゾーンプレスではディフェンスラインのラインコントロールにより相手のFWなど前線の選手を無力化し数的優位を作ることでポジションから離れても不利な状況にならないようにする』。
日本代表ではラインコントロールが低い状態で自分のポジションから離れてボールへプレスを掛けるため、ボール奪取から展開する際に必要なポジションに人が居ないのだ。
写真
もちろんシステムが大きく崩れた時は、
・カウンター狙いのポストプレイ、
・誰でもいいので展開できる人を必ず作る、
・ディフェンスラインなど安定して展開し時間を作る
などが望まれる。
図
パスコースを作るための動きが必要
選手は「首を振る動作」が極端に少なく、まるで自分のポジションを確認していないかのようだった。
そのせいか一度パスを出した後は再度ポジショニングをすることもなく役目を終えたかのように止まるのだった。
その結果味方とポジションが重なる、味方との距離感を保てないなどの問題が生じた。
ボールの奪取後は特に味方との距離感を戻すために
パスコースを作るためのポジショニングが続かない
ポジショニングと言えばまず自分のマークマンから離れボールを貰える位置に動くことである。
中盤でパスがつながらない理由は各写真のDMFを見ると分かるが、まるでイニエスタ選手を真似するかのように近寄りすぎ、パスを繋ぐためではなくボールに触ることしか考えていない。
味方のためのオフザボールが無い
また敵の間に顔を出すためのポジショニングも、一度駄目だとやり直さずに止まる。
本来はボールを貰える位置に動き続け、駄目ならば自分のマークマンを動かすことで一列前にいる味方へのパスコースを作る。
この一連のボールに関与しない時の動きをオフザボールと言うが、この動きができないようだ。
タイミングを合わせて中盤のスペースに入りこめれば、一列飛ばしたパスが通ることになる。
ボールを貰いながらターンができない(振り向けない)
まずボールへ近寄りすぎることもあるが、次に周りを見てからボールを貰おうとしないのでターンができない。
また背後を確認しないために一度走り出すと止まれず、向きも変えれないため味方とポジションが重なることもあるようだ。
パスコースを作るためのドリブルができない
これだけポジショニングを繰り返すとシステムは崩れ、味方がいるべき場所にいないこともある。
その状況を把握するための首を振る動作が足りないため、ドリブルが必要となった場面でも瞬発的にドリブルをする判断にならないのだ。
また日本代表選手は中盤でのドリブルを異様に怖がる傾向にあり、ドリブルでボールを運ぶべきシーンでも無理やりパスを選択しようとして止まる。
中盤からドリブルを合わせてカウンターに切り替えられるシーンでも、最後尾から無理矢理やり直そうとしてカウンターの機会を無くことも多々あった。
現在は久保のみが中央でドリブルをする
コロンビア戦終盤では久保に替わることで行っていたが、一人では潰されやすく、味方もパスを貰うための動きができないようだ。
カタールW杯以前のアメリカ戦などの鎌田、それ以前では南野も行っていたのだが、徹底的にマークされることでやり方を忘れてしまったのだろうか…
結果として縦パスが通らない
その結果縦のパスが通らない状態ができたのだった。
今後求められる中盤での全体の動きはシステム変更であり、個人の動きはシステム変更をしながら伊東のようなボールの貰い方と久保のような中央でのドリブルによるボール運びとなる。