現代サッカーでは、常に局所的に数的優位(有利)を作り続ける戦術が優先される。数的優位を作るとマークされない味方ができ、ポゼッションを簡単に出来るようになるためである。
数的優位を作る最も根底にある戦術はラインコントロールであり、ラインコントロールによってチーム全体の守備戦術が決まると言っても過言では無い。
今回は同じ画像を様々な状況に見立てて説明する。
話は段階的になっているが、画像を状況に合わせて見直してください。
数的優位を作るラインコントロール
下画像のオーストラリアのディフェンスライン(黄色)では、右側のメッシがオフサイドポジションに居る。そのためメッシはボール回しに参加できず、オーストラリアは一人数的優位な状況である。
ディフェンスラインを黄色から赤色へ上げると、二人数的優位になる。
この様にラインコントロールは相手FWを無力化し、数的優位を作ることができる。
ラインコントロールの難しさ
相手FWを無力化させるには、「ディフェンスラインを上げるほど良い」わけではない。
赤ラインで二人もしくは三人を無力化させたとしても、広大に空いたディフェンスライン(黄色)の裏のスペースを足が速い選手に使われることになる。
ディフェンスラインを下げさせるメッシのラン
ここで一旦画像の設定を変える。
この画像の前の状況で黄ディフェンスラインが赤にあったとする。
この状態から右側FWメッシ(青マーカー)がライン裏へ走るとDF3~4人が釣られて動くため、中盤で3人が多くなることすらある。
赤ラインであればアルゼンチンの選手二人から三人が無力化されていた。
しかしメッシがラインの裏でパスを貰おうとするランにより、メッシだけが無力化されることになった。
メッシのランはディフェンスラインを下げさせることで味方二人をオフサイドポジションから戻し、中盤を広くしたのだ。
ラインコントロールはディフェンスラインを常に上下させる
このようにオーストラリアのディフェンスラインは裏へのパスを警戒し、上下させることで一人から三人の相手FWを無力化させる。
これをラインコントロールと言う。
数的優位を作るシステム変更
試合中のシステム変更によりDFの数は3~5人に変わるのだが、常に同じ人数でディフェンスラインを作る必要はない。
DFが上がることで高い位置に人数を掛ければ、数的優位を作ることができる。
①「SBの上下とアンカーのCB化」によるシステム変更で数的優位を作る
図1 433から343へのシステム変更
6番と2番のSBがSHの位置へ上がり、アンカーとも言われる5番のDMがディフェンスラインに入り、結果として中盤が一人増える。
図1右側からさらに押し込んだ状態では10番、8番、5番が更に上り、3番と4番の2バックになるため、中盤の人数が更に増えることになる。
②「WBの上下」によるシステム変更で数的優位を作る
図2 523から343へのシステム変更
攻撃的なSBと言われる6番と2番のWBが上下することでシステム変更をする。
6番と2番は自由に高さを設定できるため、常に3~5バックへ変更できるシステム。
図1同様に、更に押し込むことはできる。
ラインコントロールと両サイドの上下で全体が変わる
下がる時にマークの受け渡しやシステム変更が無いため、可変システムよりも安定しているため、433よりも523の方が優れていると思われがちだが、433(4123)とも表現され実質4列のシステムである。
523も両サイドのWBが安定していれば3~4列の可変システムなのだが、攻撃時に4列でいては4231となるため、WBが機能しているとは言えない。
そのため3列が基本となり、間延びしないためには高いラインコントロールが要求される。
【ラインコントロール 参照】
・日本対スペイン(前半)
連動性とシステム変更と数的優位の関係性
一時期日本サッカー界で「連動性」と言う言葉が流行った。
例えばSBがSHを追い越し、流れで入れ替わることも連動性と言う。
他には「433から343への可変システム」や「SBやWBの上下によるシステム変更」など全体で行う連動性もある。
全体で行う連動性の目的は、味方同士のポジションが重なることを避けて数的優位を作るためであり、確認しなくても「そこに味方がいる」と分かるメリットがある。
このように、システムとそのポジションを意識して規則的な動きをすると、あらゆる状況で味方を探す時間が省略でき、守備時はマークの受け渡しがスムーズになったり、攻撃時はパスワークにリズムが出たりする。
日本代表の連動性はポジションから離れるだけ
W杯カタール大会までの日本代表は規則的なシステム変更が無いため、ただポジションから離れているだけと言える。