サッカーで「強いチームの条件」とは何だろうか?具体的に挙げることは難しいが、戦術面で考えてみよう。
勝てなくても負けない戦術
最近のトレンド戦術を踏まえ、話を単純に考えてみよう。
サッカーでは点数を取られなければ、例え「勝てなくても負けることはない」。
ペップ・グアルディオラ監督の4CB
そこでグラウディオラ監督が率いるマンチェスター・シティが作った4CBという戦術がある。
欧州の一部でトレンド戦術となったのが、従来のSBとCBを2人づつの4バックに対し、4人のDFを全てCBにする戦術であった。
攻撃側が渦の動きをしてきた時にSB役とCBが入れ替わっても安定感がなくならない、という守備戦術だった。
個人的には4CBと言うよりも、CBもできるSBと言った方が的確な気がする。
森保監督の日本代表4CB
森保ジャパンは2024年6月のシリア戦で4CBを採用した。
Youtube界隈が盛り上がっていたのだが、ビリーは何か特殊なことが起きたとは気づかなかった。
シャビ・アロンソ監督のトランジションの意識
ビリーは堅守速攻やカウンターこそ日本代表が世界で活きる道だと考えているのだが、シャビ・アロンソ監督も似たような考えをしている。
シャビ・アロンソ監督がレバークーゼンにシーズン途中から就任した当初、チームに最も重要な意識の一つがトランジション(攻守の切り替え)の意識だったと語る。
常に攻撃の意識を持ちすぎると相手のカウンターを受けることになり、守備がおろそかになる。
そのため4バックから3バックへと変えられたディフェンスラインは、常に高さや距離間を意識するように指示していたそうだ。
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ビリーの堅守速攻の戦術とは
攻めっぱなし、守りっぱなしではなく、攻守が表裏一体であることを意識し、味方と敵のポジション(位置)を確認し、次のプレーに備えて自分のポジショニング(位置取り)を行えという意味である。
一見するとビリーとは大きく違うように聞こえるが、守りながら攻める(”守りながら”押し込み、奪った瞬間に速攻を決めるカウンター)と同時に、逆もまた然り(しかり)なわけである。
攻撃しながらも守るような感覚を持つことが堅守速攻だとも言えよう。
- 【基本戦術】
守備陣形の基本は3-3-1+3であり、『堅守速攻』を常に考える。自軍はどの高さからもカウンターを狙い、敵軍にはカウンターをさせない。 - 【トランジション】
ボール奪取からのトランジション(攻守の切り替え)で、攻撃の中心はカウンター。アイソレーションで待つWGやSHを中心に攻める。 - 【ティキタカ】
カウンターが駄目な場合は、システム変更も加えたポジションチェンジを繰り返し、数的有利を作った状態でのビルドアップ。
常にフリーになっている選手にボールを回すティキタカを目指す。 - 【ポゼッション】
アタッキングサードでは疑似カウンターを常に行い、相手の隙をつけるまでやり直し続ける。
「攻撃しながら守る感覚」とは何か?
タイトルでも”感覚”と言う言葉で濁(にご)したのだが、この感覚とはポジショニングのことだ。
日本代表はボールタッチの技術やフィジカル(肉体の能力)は世界でもトップレベルに近づいたのだが、ポジショニングの技術はいつになっても上がらないように見える。
ゴリゴリにシステマチックな戦術志向なビリーには、最近の日本代表の選手たちがどうも感覚だけでポジショニングをしているように見えて仕方がないのだ。
ポジショニングは一人ズレると全員ズレる
最近に日本代表では4-3-3や3-4-3を多く見る。
ANC(アンカー)の位置で守備の要として欧州で絶賛されている遠藤選手なのだが、ビリーにはボールや味方に近寄りすぎている様に見える。
世界中でイニエスタ選手に憧れた人がプレイスタイルを真似した結果、一人でボールを追い続け、味方のプレイエリアに入って選択肢を潰し、味方なのに邪魔をしている。
ビリーは勝手に『イニエスタ化』と呼んでいるのだが、遠藤選手もイニエスタ化してしまったのではなかろうか。
遠藤選手のポジショニング
ディフェンスラインからボールを引き出す過程で遠藤選手がDFに近づきすぎて壁となり、代わりに久保や鎌田がDMの位置へ下がり、遠藤選手を飛ばしてボールを引き出すことで中盤と前線に人が足りなくなる。
変わりにWBの堂安選手が上下でコントロールし、高い位置で渦の動きをしようにも、中盤と前線に人が足りないのでボールが思うように回らない。
この様に一人のポジショニングが悪いと全体に波及し、連動性が止まることになるのだ。
誰も遠藤のポジショニングが悪いことは指摘せず、堂安の調子が悪いように評価されていた。
システムを守るポジショニングとは
例えば4-3-3のシステムから攻め上がり、3-4-3へとシステム変更をしたとする。
右サイドで渦の動きをしてポジションが入れ替わっても、プレイが切れるまではそのポジションの役割とプレイをし続けなければならない。
システム変更や渦の動きなどポジションチェンジをしながらでも、その時のシステムのポジションを守るためにポジショニングを行い、マークマンの間にズレ、タイミングを合わせてボールを貰う。
チームでポジショニングの決まり事を作ることでパスをする相手を探す時間が減り、リズムや連携が生まれることになる。
攻守の切り替え(トランジション)時でも各ポジションから大きく離れないことで、安定感が増すことになる。
10年ほど前の日本代表で流動的な動きが流行りポジションチェンジをし続けることがあったのだが、ポジションに収まりきれてなかったので攻撃に継続性が無いように思われた。
システム変更が必ずしも良いわけではない
昨今のシステム変更は、ボールの高さにおいて常に数的有利を作るために行われ、自陣からシュートへ向けて仲間全体でボールを運ぶことになる。
ボール運びのイメージは鳥かごと呼ばれるパス回しをしながら進むイメージを持てばよいだろう。
この鳥かごを行う時に数的有利を作るためシステム変更を行うのだが、ポジショニングが苦手な選手がいるとシステム変更自体が上手くできないのだ。
システム変更はポジションチェンジの連続
ポジションチェンジで最もイメージしやすいのは選手同士の入れ替わりだろうが、それ以外にもシステム変更でポジションを変えることもある。
例えば4-3-3から3-4-3へシステム変更することを考えてみよう。
※図のポジション番号は国や人によっても異なるので、あくまで目安。
ディフェンスラインを中心に全体でパスを回しながら(ボールを運びつつ)上がりながらANC(アンカー、5番)がCBに吸収される。
両SB(サイドバック、6番と2番)が1~2列上がることでシステム変更をする。
このシステム変更(ポジションチェンジ)をボールを回しながら行うのだが、マークマンを外す動きと連携のタイミングが要求され、なかなか複雑になることがある。
5番がラインコントロールの中心になる
さらにこのシステム変更では、突如ボールが奪われカウンターを受け守備に切り替える際(トランジション)、5番がラインコントロールに参加することになる。
5番が中心となってラインの高さを決めることもあるため、ディフェンスラインの中心になることまで考えなければならない。
さらにポジションチェンジをしたことで自分のマークマンが誰なのかとっさに分からなくなることすらある。
流動的なシステム変更のメリットとデメリット
攻撃時のシステム変更は数的有利を作ることができる反面、トランジション(守備への切り替え)で複数のポジションをこなす能力(ポリバレント)が必要となり、マークの受け渡しミスも起きる。
『流動的なシステム変更』と簡単には言えるが、実際は各ポジションで幾つもの能力が必要になり、各システムでポジションを正確にこなす必要が出てくるのだ。
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最小限のシステム変更でリスクを減らす!?
2024年9月20日現在の日本代表では3-4-3のシステムが採用され、大きなシステム変更はしていない。
当ブログでは「日本サッカー界にはポジショニングの文化が無い」と繰り返し言ってきたのだが、正確なシステム変更ができない以上、システム変更はリスクしかない。
ではリスクを減らすことはできないのだろうか?
森保監督が”たどり着いた”のかどうかは分からないが、システム変更が出来ない以上3-4-3で両サイドのWBが上下することで数的有利を作る。
下図で①と②は何が違うのか、考えてみよう。
①4-3-3から3-4-3へのシステム変更
CF
WG WG
SB SB
DM DM
CB ANC CB
GK
- (前述内容)
高さによってシステム変更があり、マークもズレやすい。
ANCがラインコントロールの中心になる。 - ビルドアップの際にミドルサードに上がれた時、ANCが上下動することで数的有利を作りやすい。(3-4-3よりも一人数的有利になるが、SBは守備が中心なのでディフェンスラインが不安定になりやすい。)
- 守備が中心で専門のSBが、中盤でビルドアップから攻撃へ参加する。
- 攻守の切り替え(トランジション)の安定感は、システム変更とSBの上下動に大きく依存する。
②最初から3-4-3のシステム
CF
WG WG
WB(SB) WB(WG)
DM DM
CB CB CB
GK
- WBはSBの選手か中盤、前線の誰かしらが行うことができるが、ラインコントロールに参加する必要があり、上下動することで走行距離が想像以上に伸びることになる。
- CBが最低でも3人必要になり、W杯など過密日程で連戦が続く場合は疲労が抜けない。試合ごとに行う交代戦術(ターンオーバー)をする場合は最低でもCBが5人必要になる。
- ラインコントロールが必要となることから専門のCBに人数が必要となり、W杯の予選のように充分な体力管理(コンディショニング)を行う余裕はない。
- 攻守の切り替え(トランジション)の安定感は、両サイドのWBの上下動へ大きく依存する。
- WBの選手により、システムを攻撃的にも守備的にもできる。
- WBの選手を左右対称にする必要がない。
(上図WBの例)LWBを本職SB、RWBを本職WGなど。
4-2-3-1へシステム変更がし易い。(下記、システム変更例)
CF
WG WG WB(WG)
DM DM
WB(SB) CB CB CB .
GK
システム変更ありきのシステムは、攻撃時に数的有利を作りやすいが攻守の切り替え(トランジション)で不安定になる。
システム変更なしの3-4-3などのシステムはディフェンスラインが安定するが、WBの上下動が必要になる。
【森保ジャパンの北中米W杯予選と本戦を見据えた戦術】
2024年9月のW杯予選では、3-4-3の攻撃的なWB(左;三笘薫、右;堂安律)で中国(7-0)とバーレーン(5-0)を圧倒した。
現状ではCBの人数も豊富で3-4-3が実践可能だが、怪我や疲労などの理由で一人でも欠けるとW杯本戦での3バックはできなくなる。
そのため予選では3-4-3(3CB)の攻撃的なシステム。
W杯グループステージでは4-2-3-1(2CB)や4-3-3(2CB)、ノックアウトステージ(W杯本戦のトーナメント)のここ一番では再び3-4-3(3CB)を採用し、その時々で全力が出せるシステムを構成するだろ。