サッカーのゾーンディフェンスとは、ピッチを複数のゾーンに分割し、それぞれのゾーンに選手を配置する守備戦術のこと。(上図左側)例えば自陣のペナルティエリア付近を4つのゾーンに分けた場合、それぞれのゾーンに1人ずつ選手を配置し、相手選手の侵入を防ぐ形になる。
ボールの高さにより選手の距離間を変えることもできる。(上図右側)そのゾーンに入った相手選手に対し、担当ゾーンの選手が対応する。選手の距離間が遠い時はマンツーマン、近い時は複数人で対応するゾーンプレスになるため、よく混同される。
ゾーンディフェンスとは守備全体の話であり、マンツーマンやゾーンプレスは守備の一部を切り取った話である。
ゾーンディフェンスと流行した経緯とは
2005年オフサイドのルール改定により守備戦術のラインコントロールが消え、各チームではゾーンディフェンスが主流となった。
VARの試験的導入も2016年からのため、2020年前後まではゾーンディフェンスの時代が続くことになる。
オフサイドのルール改定で迎えた守備戦術の転換期
2005年以前でも副審の目視によるオフサイドの判定は曖昧であり、試合結果が逆になる誤審も日常茶飯事だった。
従来のラインコントロールによるオフサイドトラップの守備戦術は、明確にオフサイドだと分かる精度が求められていた。
2005年のオフサイドルール改定を簡単に言うと「プレイに関与した人のみオフサイドの対象となる」と追記されたため、副審の目視だけを頼りオフサイドトラップを仕掛けることは余りにもリスクが高すぎた。
2005年のルール改定で、サッカーの守備戦術は大きな転換期を迎えることになった。
監督や戦術家たちは、より柔軟かつ組織的な守備戦術を求めた結果、ゾーンディフェンスが主流となっていく。
ワイドプレイ対策のゾーンディフェンス
VARが広まりラインコントロールが戻ってからは「もうゾーンディフェンスも見ることが無いだろう」と思っていたが、EURO2024でワイドプレイがトレンド戦術になると、またゾーンディフェンスを見ることになった。
▶フィールドいっぱいに広がるワイドプレイとは
EURO2024ではGKからのビルドアップのシステム変更ばかりが注目されていたが、ミドルサードではワイドプレイが主流となり、ゾーンディフェンスとラインコントロールが組み合わさっていた。
ワイドプレイでは1対1が基本となるため、一人のミスが局面を変える緊張の展開が続いていた。
▶ここ約20年の戦術の歴史を振り返る
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ゾーンディフェンスの高さと名称、メリットとデメリットとは
ゾーンディフェンスには、高さにより名称があり、主流だった頃は以下の名称で呼ばれることがあった。
実際のゾーンディフェンスでは、ゾーンをきっかり分けてマンツーマンディフェンスをするわけではなく、高さによりマンツーマンディフェンスからゾーンプレスの要素を強くしていく印象だ。
現在ではエリア戦術の流行により、エリアと呼ばれている。
▶エリア戦術とその名称とは
- プレッシングゾーン
高い位置では1対1(マンツーマン)の状態からパスコースを切り限定し、相手のプレイエリアを限定し、ミスを誘発させながらボールの奪取を目指す。
※高い位置でゾーンプレスを掛けると自陣に広く空いたスペースへロングパスを通される。 - ミドルゾーン
中盤の位置では1対1(マンツーマン)からコース切りを行い、サイドや数的有利なスペースへの誘導しゾーンプレスを目指す。 - ディープゾーン
自陣の低い位置ではコンパクトに守り、1人に対して複数で対応するゾーンプレスを行う。
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ゾーンディフェンスのメリット
- 柔軟性が高い
ボールの位置や高さに合わせて選手も動くことで、常に最適な守備陣形を保つことができる。4-4-1-1から4-4-2、4-5-1、5-4-1など。
ゾーンディフェンスはマークの受け渡しなどチーム全体で連携して守備を行う。 - フィジカルが強い選手が有利になる
選手の距離間が広いため1対1の局面が多くなるため、フィジカルやボール奪取の能力など個人の能力が高いほど良い守備になる。(連携を補助的に行う。) - チーム全体の連携が重要
マークの受け渡しなどゾーン間の連携をスムーズに行うほど、より強固な守備ブロックを形成できる。 - 個人の負担軽減
ゾーンを守ることで走行距離が減り、特定の選手に負担が集中せずチーム全体で守備を分担できる。
ゾーンディフェンスのデメリット
- フリーの選手やスペースが生まれる
冒頭の図のように、特にゾーンの境目でマークの受け渡しなどでミスをすると、フリーになる選手やスペースが生まれることがある。 - 連携ミスによる失点
ゾーン間の連携が上手くいかないと、相手選手に間や裏を取られる可能性がある。
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実際のゾーンディフェンスは高さや相手で変わるハイブリッド方式
実践で多くのチームが採用していたゾーンディフェンスは、マンツーマンとゾーンプレスを組み合わせるハイブリッド方式だった。
ゾーンディフェンスとマンツーマンディフェンスの関係
特に高い位置などでゾーンを広く設定した状況では、マンツーマンディフェンスになる。
ゾーンプレスを行わないチームでは、『ゾーンディフェンス=マンツーマンディフェンス』が成り立つため、勘違いする人も多かった。
ファンタジスタへのチェイス役
位置が下がるにつれてゾーンディフェンスを継続する選手たちと、相手チームで攻撃の核となるファンタジスタたちをマンツーマンでマークし続ける選手もいた。
チームで決めた高さにファンタジスタが侵入してくると、DMがマンツーマン役になり、ゾーンを無視してチェイス(追跡、ずっとマークし続ける)を行う。
近くにきた守備側の選手は、マンツーマン役と合わせて対応することもあったため、フリーになる攻撃側の選手もいた。
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ゾーンディフェンスとゾーンプレスの関係
ゾーンプレスはボール付近の選手がボールホルダーに向かって積極的にプレッシャーをかけ、相手の攻撃のリズムを崩しミスを誘発し、ボールの奪取を目的とした守備戦術のこと。
ゾーンディフェンスでは低い位置ほど味方同士の距離が縮まり、左右前後のゾーンが重なることでゾーンプレスになることが一般的だった。
中盤では一度ドリブルやパスで抜けられると、寄せた選手が空けたスペースからパスを通されることになる。
そのため、上図右側のように全体でボール方向に寄ることが多い。
▶守備のエリア戦術「ゾーンプレス」とは
プレッシングゾーン(高い位置)でハイプレスを行わず、ミドルゾーン(中盤)からゾーンプレスを掛けるチームにとっては、『ゾーンディフェンス=ゾーンプレス』が成り立つため、勘違いする人が多かった。
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ラインコントロールの有無で大きく変わる
上記まではラインコントロールがない状態でのゾーンディフェンスを説明したが、ラインコントロールがあると話は全く別になる。
ラインコントロールを行うと相手FWを無力化することで全体的に数的有利を作ることができるようになる。
すると1対1(マンツーマン)の局面が減り、中盤でも味方と連携することでゾーンプレスを掛けやすくなる。
▶数的有利を作るラインコントロールとは
2005年にオフサイドのルール改定以降から2022年のカタールW杯まで、多くの強豪チームがゾーンディフェンスを採用していた。ラインコントロールが存在しなかったため、全体が間延びし、ディフェンスラインでは常に1対1のような状況が多く生まれた。
守備戦術にラインコントロールが戻るとゾーンプレスの中でマークの受け渡し程度の存在となり、それはゾーンディフェンスと言えるものではなかった。
ところがEURO2024でワイドプレイがトレンド戦術となると、ゾーンディフェンスが再流行した。