イビチャ・オシム監督が日本代表を率いていた当時、頻繁に口にした「ポリバレントな選手」という言葉。一体何を意味するのか?
ポリバレントな選手とは、複数のポジションを高いレベルでこなせる選手のこと。単に複数のポジションをこなせるだけでなく、フィジカル(身体能力)が高く、どのポジションでもチームに貢献できる高い技術を兼ね備えた選手のこと。
ポリバレントな選手がチームにもたらす戦術的メリット
ポリバレントな選手を「複数のポジションが出来る選手」と勘違いされやすいが、「複数のポジションが出来る」ことも高い能力の一つ。まず複数のポジションが出来ることの戦術的メリットを考えてみよう。
- 怪我やカードによる穴を埋められる…他の選手が怪我やカードで出場できない場合でも、ポリバレントな選手が穴を埋めることができます。
- 戦術の幅が広がる…複数のポジションをこなせる選手がいると、監督はより柔軟な戦術を組むことができるようになる。例えば相手の弱点を突くため試合中に選手交代無しでもシステム変更を行えるようになる。
- 相手の戦術に対応できる…相手の戦術に合わせて選手を入れ替えることで、より効果的に対応することができる。
- 選手の成長を促す…複数のポジションを経験することで、選手はより多くの経験を積み、総合的な能力をより向上させることができる。
オシム監督が重視した理由
オシム監督はサッカーを一つのスポーツとして捉え、選手一人ひとりが様々な能力を身につければ、より高いレベルのサッカーを実現できると考えていた。ポリバレントな選手育成は、その考え方の具現化と言えた。
日本代表における代表例
オシム監督が日本代表でポリバレントな選手として評価していたのは、阿部勇樹選手や長谷部誠選手などが挙げられるだろう。これらの選手はボランチだけでなく、センターバックやサイドバックなど、複数のポジションを高いレベルでこなすことができ、戦術の幅を大きく広げた。
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ポリバレントな選手になるために
ポリバレントな選手は最初から万能なわけではなく、様々な経験を重ねて到達する。
ポリバレントな選手になるためには、高い基礎体力、様々な技術の習得、戦術理解力、そして柔軟性が求められるが、難しく考える必要はない。
サッカーはポジションが変わるとプレイの割合が変わるだけであり、「割合の多いプレイを各ポジションの特徴」と考えれば分かりやすい。
各ポジションごとの特徴
- DF(ディフェンダー)…ほぼ前を向いている。
守備時は、ラインコントロールを中心に、マンツーマンディフェンスを行う。
攻撃時は、ボール回しを行い、MFやFWにパスを供給する。 - MF(ミッドフィールダー)…前後左右と周りを見るため、視野の広さが重要。
守備時は、DFと一緒にラインコントロールを行い、ボールホルダー(ボールを保持している人)に味方とゾーンプレスを掛ける。
攻撃時は、FWにパスを繋ぐために前後左右とパスを回し、相手ディフェンスラインで崩せる位置を探す。 - FW(フォワード)…ほぼ後ろを向いている。
守備時は、相手チームに中央を使わせないようにコースを切り、ミスを誘発するようにプレスを掛ける。
攻撃時は、DFやMFからパスを貰い、ゴールへ向かってシュートを打てるようなポジショニングを行う。 - 左右と中央…以上のフィールドの高さに加え、「左右と中央」でプレイスタイルも変わる。例えば、利き足サイド、逆足サイドでプレーすることでも大きな違いが出る。
この様に、様々なポジションを重ねることで、サッカーに必要な様々な能力が伸びてポリバレントな選手へと到達する。
オシム監督のポリバレントな選手という考え方は、単に複数のポジションをこなせる選手を育成するためだけではない。サッカー選手として総合的な能力を向上させ、チームに貢献できる選手を育成するための重要な概念なのだろう。